「デジタル教科書」は紙の教科書をとって代わるのか、2024年度から本格導入へ

  • 2022年4月18日
  • 2022年4月18日
  • 社会
  • 0件

デジタル教科書と聞き複雑な想いをするのは、筆者が出版社に勤務していたことが理由にあります。
電子書籍元年と呼ばれた2010年より、紙から電子媒体への移行は着々と行われています。
しかし現在のところ漫画、コミックの普及率が圧倒的であり、その他の分野については遅々として進んでいないのが現状です。
しかしそう遠くない将来、紙媒体の多くはデジタルへとって代わることでしょう。
しかしそれが筆者が考えているよりも早く実現しそうに思えます。

2024年度より国はデジタル教科書の本格導入を目指しています。
デジタル教科書普及に関する法律が施行された早3年ほどが経過しました。
しかし2020年3月時点での公立学校(小学校、中学校、高校)への利用率は全国で10%未満というのが現状です。
そんななか、2022年3月、読売新聞がデジタル教科書導入に関するアンケート調査を500校にしたところ、興味深い結果となりました。
約8割以上がデジタル教科書に対して懸念を持っていることが分かったのです。
果たして2024年度までに導入することは可能なのか、そして導入後の紙の教科書はどうなってしまうのか。
こうした数々の課題と共に、デジタル教科書について解説します。

デジタル教科書とは

デジタル教科書とは読んで字のごとく、デジタル化された教科書のことをさします。
文部科学省の定義では

「学習者用デジタル教科書」とは、紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材を指します。

文部科学省「学習者用デジタル教科書について」より引用 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/seido/1407731.htm

紙媒体の情報をPC、タブレット端末を使用してデジタル情報として閲覧できるものとなります。
ここで重要になるのが、紙媒体の情報と同一の内容をデジタル化している、という点です。
将来的に紙媒体からデジタルへ完全切り替えする場合、少なくとも紙媒体の情報を完全に網羅されていなければなりません。
デジタル教科書になったことで元々存在していた紙媒体の情報が欠落していた、となっては話になりませんね。
反対にデジタル教科書によってより多くの情報を取得できたり、効率的に学習できるようになるというのが移行の目的でもあります。
こうしたデジタル教科書のメリットの詳細については後述を参照ください。

しかし完全な切り替えについてはまだまだ先の未来になる可能性があります。
2019年の法律改正においてはあくまでも紙媒体との教材が主であり、必要に応じてデジタル教科書を併用する、という決まりとなっています。
そのため現状においては紙ありきの運用となるのです。

この他、詳細については文部科学省HPをご確認ください

「デジタル教科書に関する制度・現状について」

国の方針、学校の現状

2019年、文部科学省はデジタル教科書推進のため、「GIGA スクール実現推進本部」を設置しました。
「GIGA スクール実現推進本部」では学校に通う生徒がデジタル教科書を十分に活用できるために支援するための機関です。『安心と成長の未来を拓く総合経済対策』(令和元年 12 月 5 日閣議決定)において、「学校における高速大容量のネットワーク環境(校内 LAN)の整備を推進するとともに、特に、義務教育段階において、令和5年度までに、全学年の児童生徒一人ひとりがそれぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指すこととし、事業を実施する地方公共団体に対し、国として継続的に財源を確保し、必要な支援を講ずることとする。

文部科学省「GIGA スクール実現推進本部の設置について」https://www.mext.go.jp/content/20191219-mxt_syoto01_000003363_08.pdf

GIGA スクール実現推進本部により、デジタル教科書は一気に普及することになりました。
第一次報告によると小学校、中学校のデジタル教科書発行は約95%に達したとのこと。
これによって学校側の準備が整い次第、すぐにデジタル教科書を利用できる体制は整ったのです。

にもかからず、前述したように、学校内でのデジタル教科書の利用率は10%未満となっています。
これにはアンケート結果からもわかるようにデジタル教科書利用に伴い懸念点、課題が存在するからです。
ではどういった課題が存在するのでしょうか。

デジタル教科書の課題

ここからはデジタル教科書の利用に関する課題、デメリットについて解説します。

  1. 集中力の低下
  2. 視力の低下
  3. 端末の管理問題
  4. デジタル教科書の購入費用
  5. 学校(教師)側の教育体制が整っていない

1.集中力の低下
我々大人であっても、スマートフォンに集中するあまり、周囲の人の声が聞こえなくなる場合があります。
子供であればなおさらですね。
デジタル教科書を見るための機器の操作に集中することで、肝心の教師の声が聞こえてなくなる懸念があります。
操作方法に慣れない場合や、デジタル教科書以外の目的で機器を使用するなど、学習に集中できない場合があります。

2.視力の低下
紙媒体以上にデジタル機器を閲覧する場合には眼に負担がかかります。
視力を低下させないためにもデジタル教科書のコンテンツや機器の技術的な工夫が今後課題となるでしょう。
健康面での懸念点が残る以上、完全なデジタル教科書への移行について困難と言えます。

3.端末の管理問題
デジタル教科書を閲覧する機器、PCやタブレット端末などの管理方法についてです。
授業中であれば教師の指示に従い、利用することができます。
一方で休み時間や自宅学習の際、機器を適切に利用できるかどうかは生徒次第となるでしょう。
セキュリティなどの制限をかけることはできますが、それでも限界はあります。
特に懸念されることが、適切に利用したうえで機器が破損した場合です。
インターネット接続によるウイルス感染といったソフト面と、機器そのものが物理的に破損するハード面での問題があります。
どちらにしても自動だけでは解決できない場合が多く、保護者、学校側での対応、管理が必要となります。

4.デジタル教科書の購入費用
義務教育において紙の教科書は無料です。
しかしデジタル教科書場合は新たに費用が発生します。
小学校の教科書の場合、200円~2,000円程度(教科や発行者によって異なる)を想定しています。
これを自治体または利用者(児童側)が負担することになります。
仮に基本となる9教科全てのデジタル教科書を購入する場合はいくらになるでしょうか。
最低1,800円から最大で18,000円となります。
これは流石に極端ではありますが、それでも数千円以上の負担です。
これを自治体が負担できればよいですが、そうなった場合、自治体ごとに対応が差別化されてしまい、平等な学習と呼べなくなります。
よって利用は紙同様、デジタル教科書も無償化すべきところです。
とはいえ、デジタル教科書の場合、無償化にはさまざまなハードルが存在します。
最も懸念されるのが、著作権の問題です。
紙と異なりデジタル媒体は容易にコピーができてしまいます。
これを抑止するためにも、デジタル媒体にはお金がかかる、という認識を子供時代より認識しなければなりません。
現在ではインターネットであらゆる情報が無料で手に入ります。
しかしこれらの情報については紙媒体のようにはっきりした情報元、身元がはっきりした著者が作成しているわけではありません。
そのため、その情報は正確性が保証できません。
一方で書籍のような紙媒体については出版社といった法人が幾人もの校正やチェックが入ることで正確性の高い情報媒体として世に出しています。
そのため、デジタル教科書はデジタル媒体であるにもかかわらず、ある程度保証された情報源といえます。

また、負担を強いられるのは何も児童側だけではありません。
学校側も児童以上の負担となる可能性があります。
学校側の場合、児童のように一度きりの買い上げではなく、ライセンス使用料として年間での支払いとなる可能性があります
教師が利用する場合、その教師ごとにデジタル教科書を1コンテンツずつ割り当てる、とうのではなく、学校単位で使用できるライセンス数を契約する、といった流れとなるでしょう。
そうしなければ一度購入した教科書を何年の学校側が使用し続けてしまうことになります。
また教師に転勤や臨時の代行など、教師単位で教科書を紐づけてしまった場合には臨機応変な授業の変化に対応することが困難でもあります。

こうした理由から、教科購入費というのがデジタル教科書におけるもっとも大きな課題の一つと言えるでしょう。

5.学校(教師)側の教育体制が整っていない
この点について教師側が最も懸念しているのではないでしょうか。
特に今回のアンケート結果においてもこの点が懸念されていることは間違いありません。
これまで紙媒体で教育を受けてきた教師陣が初めてデジタル教科書を併用したうえで授業を行うことになります。
どの場面で効果的にデジタル教科書を使用するかの見極めが難しいことでしょう。
また、何よりデジタル教科書を操作するため、デジタル機器の知識も必要となります。
授業中にデジタル教科書が閲覧できないといったトラブルは今後確実に発生します。
その際、デジタル教科書のコンテンツに問題があるのか、それとも閲覧する機器の問題か。
はたまた学校側のインターネット環境にトラブルが発生したのか。
などなど原因となる可能性はさまざまです。
こうしたトラブルを随時解決し、スムーズに授業を行うためにも教師にはデジタル媒体に対する知識が必須となります。
こうした問題に対処するためにも紙媒体との併用は致し方がないことでしょう。

デジタル教科書のメリット

このように課題が山積みのデジタル教科書ですが、当然それに見合うだけのメリットも存在します。
主なメリットは以下の3点です。

  1. 文字や絵のサイズが自由
  2. 動画が音声など静止画以外の情報を取得できる
  3. 学習時のログの取得
  4. 教科書の持ち運びの負担が軽減される

1.字や絵のサイズが自由
紙の教科書と違い、表示サイズが児童ごとに自由に設定できます。
小さくて見づらい文字や図であっても拡大できるためストレスなく学習できます。

2.動画が音声など静止画以外の情報を取得できる
紙の場合、情報が文字と絵に限定されます。
しかしデジタル教科書の場合は動画や音声から情報を取得することが可能です。
より五感にうったえる学習により記憶の定着率がアップします。
また文字だけの単調な授業にならないというのもポイントです。

3.学習時のログの取得
学校側の最大のメリットはこれです。
生徒ごとに授業の習熟度は異なります。
デジタル教科書を利用した児童のログが残るため学習状況を把握することが可能です。
これを分析することで、生徒一人ひとりに効果的な学習を行うことがが期待できます。

4.教科書の持ち運びの負担が軽減される
デジタル教科書に一本化された場合、必要な持ち物は端末のみとなります。
そのため、重い教科書を毎日持ち帰ることが不要となります。
中身がつまったランドセルを背負って、肩こりになったという小学生が続出する昨今。
児童の健康面でのサポートも必要となります。
こうした物理的な面についても大きなメリットと言えるでしょう。
教科書が重いため、学校において帰り、結果自宅では勉強しない。
なんて習慣もなくなるのではないでしょうか。
また、逆に教科書を自宅から持ってくることを忘れた、なんてこともなくなりそうです。
学習面以外でのこうしたメリットは他にもいろいろ出てきそうですね。

まとめ

いかがだったでしょうか。
まだまだ課題が多々残るデジタル教科書ですが、それでも導入する価値はあるものだと分かります。
使う側の児童も大変ですが、それを管理する学校側もそれ以上に大変なことでしょう。
教育現場が大きく変わる歴史的瞬間ともいってよいです。
それに立ち会うことができる関係者はある意味ありがたいのかもしれません。

一方で紙媒体についても引き続き、利用して欲しいところです。
デジタル教科書ではフォローできない面も多々出てくることでしょう。
特に機器の故障時には暫定的に紙の教科書を利用するなど、引き続き併用する道を模索して欲しいというのが筆者の本音です。

  • 現在の利用率は極めて低い
  • 2024年度には本格的な導入を検討
  • 費用をはじめとした課題が多い
  • 効率的な学習効果が期待できる
最新情報をチェックしよう!