2022年1月22日にTBSで放送されたバラエティ番組『バラまき!!?新データ調査バラエティ?』の内容についてネットを中心に大きな物議をかもす一幕がありました。
ライトノベル作家の平均年収は約8,000万円であるとのこと。
このワードがSNSで拡散されるやいなや視聴者、ネット民、果ては現役ライトノベル作家に至るまで様々な意見が飛び交いました。
当番組は職業ごとに消費カロリーと睡眠時間を計算しそこから「いかに楽して稼げる職業であるか」というランキングを紹介しています。
カロリーと休息をデータとするあたり今どきの”コスパ”と意識した内容なのでしょうか。
さて、1位に輝いたのはライトノベル作家の年収約8,000万円という衝撃的な結果でした。
8,000万円といえば上位のプロ野球選手レベルとなります。
果たしてこの情報は正しいのでしょうか。
筆者はプライベートでライトノベル作家さんとお話させていただいた経験があります。
この時の内容を踏まえつつ、ライトノベル作家の年収について迫っていきます。
ライトノベル作家とは?
ライトノベル作家とは読んで字のごとく、ライトノベルの作家です。
ではライトノベルとはなんでしょうか。
筆者は定義は「専門のレーベルより発売された書籍」と考えています。
ライトノベルといえば挿絵がついた10代向けの小説といったイメージではないでしょうか。
通常の小説ほどの文量がなく、また読みやすい文体であることも特徴ですね。
しかし昨今では挿絵が存在しない作品や重要な内容が特徴な作品も存在します。
また、10代よりも上の年齢層をターゲットとしたレーベルも出ており、一括りにすることは難しいでしょう。
そのため筆者としてはレーベルつまり出版社や作者が「ライトノベルだ!」と断言すればそれはライトノベルと考えています。
実のところ「ライトノベル」の定義ではっきりしたことは決まっていないのが現状です。
歴史を紐解けば、かつては「ジョブナイル小説」や「ファンタジー小説」など名称こと違えと昔から存在していたジャンルとなります。
それがいつしか名前を変え、今日に至ったようです。
ライトノベルの名称には諸説あり、明確ではありません。
有力なのが”軽い小説”つまり英語のlight+novelとしていつしか定着した説です。
青春時代、ライトノベルと共に過ごした筆者ですが、その最盛期は2000年後半頃だと感じています。
この頃には深夜アニメの放送枠が多く、ライトノベルを原作としたアニメが多く放送されました。
その結果、アニメにはまった視聴者が原作を購入する、という流れができたのです。
2022年に現在においてはもはやライトノベルのアニメ化は当たり前となりました。
現在の主流はいわゆる「なろう系」とよばれる作品が多くを占めています。
小説投稿サイト「小説家になろう」から商業化した作品ですね。
「なろう系」の特徴は「より読みやすい、分かりやすい作品」ではないでしょうか。
タイトルを読むだけでその作品についておおよそ理解できること。
ストーリーはテンプレート化しているため、普段小説を読まない層にも受け入れやすい内容となっています。
こうしたテンプレートには賛否両論はありますが、昨今のライトノベル市場を盛り上げていることは間違いありません。今後も引き続きライトノベルの「なろう系」ジャンルとして一定の地位を得ることでしょう。
結果、このようなジャンルの台頭やアニメ化の加速によりライトノベルはより多くの人に認知されることとなりました。
ライトノベル作家はどんな人?
ではライトノベル作家とはどのような人なのでしょうか。
彼らはもちろん作家です。
ですが、一般的な小説家と決定的な点があります。
それは市場規模が通常の小説に比べ小さいことです。
つまりは収入も少なくなります。
今でこそライトノベルは様々な出版社より刊行されています。
しかし小説を扱う全ての出版社ではありません。
そうなると作品を出す数はどうしても限りがあります。
また、通常の小説と異なり年齢層が限定されているため、購入する母数は通常と比べ少なくなってしまいます。
こうした理由により売り上げ規模は通常の小説に比べ低くなり、結果、作家の懐に入る分もそれに比例します。
詳細な年収については後述します。
ここからは筆者が実際にお会いしたライトノベル作家さんをもとに彼らの人物像に触れていきます。
筆者がその作家さんとお会いしたのは2013年頃です。
2022年現在においては作家業を続けられており作家歴としては10年以上となります。
ライトノベル作家を10年続ける、というのはなかなかできません。
通常の作家もそうですが、デビュー作後、2,3作品を出した後、いつの間にか作家を引退していたという話は珍しくありません。
ライトノベルの刊行スケジュールはレーベルや作家によるものの、年間3、4冊は刊行しています。
それを10年と考えれば複数のシリーズであったとしても相当な長編となっていることでしょう。
つまりは人気シリーズを書き続けているすごい人、ですね。
そんな彼にお会いできたのは大変幸運でした。
知人の紹介にて某居酒屋チェーンにてお会いした時の印象は今でも覚えています。
一言でいえばどこにでもいるサラリーマン、といったふうぼうでした。
元々この作家さんの作品のファンであった筆者は、その作風よりもっとエキセントリックな人物像を描いていただけに意外に感じたのです。
もちろん、作品と作家は別物であるためイコールではないことを理解しつつも作家というのにはどこか浮世離れした雰囲気があるものだと考えていた当時の作者には意外に映ったのです。
筆者がファンであることを伝え、サインと握手を求めたところ、慣れた様子で快く快諾してくれました。
この時「ああ、この人は業界人、作家なんだ」と感じましたね。
その後は知人と3人で取り留めのない世間話に終始しました。
筆者は緊張してあまりしゃべることができませんでしたが、物腰丁寧な印象が強かったです。
年下の筆者に対しても敬語で話され、私の話をよく聞いてくれている印象でした。
また、自らが話す際には面白おかしく語り、話し上手であることも分かりました。
作家というのは「話下手ではないのか」という偏見を持っていた私にとってはこれまた意外な一面を見ることが出来たのです。
さてここまで話に出てきた作家さんですが、その実績について軽く触れたいと思います。
作家としては10年以上のキャリアをもち、複数のシリーズをこれまで書き上げています。
そのなかでも20巻を越える長編は現在でも人気の高い作品となっています。
アニメ化も果たし、今なお続編が期待されています(筆者も早く読みたいです)。
失礼なことを承知の上で申し上げるのであれば業界内でも上位、つまりは売れっ子作家といってもよい立場の方です。
そのため、彼から今回の対面において某居酒屋チェーンを指定してきたのには意外に感じました。
多くの印税はもちろん、アニメ化により様々な収入が発生し、お金を持っている人であることは間違いありません。
それとなくその件についてうかがうと、単純に「家から近く、好きだから」とのあっさりした回答でした。
しかし彼の腕にある腕時計は高級ブランドの品。
それだけでサラリーマンとは比べられないほどの収入があるのだと察せられました。
それとなくお金の話題になった際にうかがったところやはりアニメ化が大きかったようです。
「桁が一つ違う」とのことでした。
アニメ化によって原作が売れるのはもちろん、各種メディア展開が増えることやグッズ化販売が要因のようです。
ここに至ってようやく本人も「売れたな~」と実感されたようでした。
ここまでの話を聞いて、ライトノベル作家といえど、特段変わった人ではない、というのは理解いただけたのではないでしょうか。もちろん、他の作家が全てそうだとは思えません。
しかし今回の話でわかるとおり、面白い作品を書ける人は、話していた楽しい人であることは間違いないでしょう。
今後機会があれば多くの作家さんとお会いしたいものです。
8,000万円の根拠は?
前振りが長くなりましたがここからは平均年収8,000万円問題についてお話します。
結論から申し上げると平均年収8,000万は根拠の薄いテレビ局の誤認の可能性が高いです。
理由として2点あげられます。
- 現役ライトノベル作家が否定している
- 根拠となった情報ソースが今回の主旨と合致していない
・現役ライトノベル作家が否定している
今回の件について現役の作家が(しかも複数)異を唱えています。
「さすがに8,000万はありえない」、「それ以下の自分はライトノベル作家ではなかった?」など。
自虐交じりのツイートが投稿されています。
さすがに現役の作家よりツッコミがあればそちらを真実でしょう。
特に注目してほしいのが”わんた”さんのツイートです。
この方は現役作家のみならず、今回番組へのデータ提供を行った方ご本人です。
しかし年収については一切ノータッチらしくあくまでも消費カロリーと睡眠データのみ、だそうです。
その上で誤解がなきよう今回の件についての補足を行っております。
補足内では”わんた”さんご本人の年収について言及しています。
「サラリーマンの平均年収を少し超えるぐらい」とのこと。
”わんた”さんは著作こそ多いもののまだデビューから日の浅い作家さんです。
そのため、今回の平均年収という条件としては合致するのではなでしょうか。
いろいろと語っていただき、大変興味深い内容でした。
”わんた”さんにとって今回の件、悪影響がないと良いのですが。
・根拠となった情報ソースが今回の主旨と合致していない
実情と乖離する平均年収8,000万という数字はどこから出てきたのでしょうか。
正体は「給料BANK」なるサイトからきているようです(番組内にて引用したという説明あり)。
このサイトでは各種職業について仕事内容や給与についてイラスト形式で紹介しています。
今回の平均年収8,000万円もどうやらここからきているようです。
事実このサイトを確認すると平均年収「8,085万円」の記載がありました。
しかし気になるのはこの”平均”がトップランカーから算出されているとの記載です。
つまりは売れっ子上位層を集めただけの平均といっているわけですね。
しかし番組側は何を思ったのかこれを”作家全体の平均”と認識した可能性があります。
スタッフの誰か一人ぐらい不審に思っても良い数字のですが…
一方で、上位層平均が8,000万円というのにはある程度の信憑性があります。
ここからはライトノベル作家の年収について計算していきましょう。
実際の年収はサラリーマンより少し上
具体的なライトノベル作家の年収を計算していきます。
上記記事にて”わんた”さんがおっしゃっているように平均的なライトノベル作家の年収はサラリーマンより少し上、というのがポイントです。
サラリーマンの平均年収は高く見積もっても600万円でしょう。
”わんた”さんの「1000万円すら遠い話」発言を加味した場合、高くても700万円ではないでしょうか。
では次に実際の本の売り上げより印税を計算してみましょう。
2022年1月現在、ライトノベルの発行部数が最も多いシリーズで3,000万部です。
100万部を越えればヒット作と呼ばれるため、トップランカーの発行部数はとんでもないですね。
参考情報として国内で最もうれた本は800万分の絵本「窓ぎわのトットちゃん」です。
他に有名どころで言えば「ハリーポッター」が500万部、新書「バカの壁」が440万部となります。
※ライトノベルの場合シリーズ累計部数のため、これらの本と部数の条件は異なります
印税は本体価格の10%、本体価格は1,000円とします。
よってトップランカー(3,000万部)の印税は以下の通りです。
100円(1冊あたりの印税)×3,000万=30億円
これが生涯における印税となります。
これを作家歴20年の年収とした場合、
30億÷20=1.5億
いかがでしょうか。
次にトップランカーの中の下層を100万部とした場合はどうでしょうか。
印税、本体価格は同一とします。
100円(1冊あたりの印税)×100万=1億円
これが生涯における印税となります。
これを作家歴10年の年収とした場合、
1億÷10=1,000万
トップランカー内でも上部と下部においても約10倍の差があることがわかります。
よって単純平均した場合、「給料BANK」のいうところの平均年収8,000万円もトップランカーに限定すればあながち間違いではなさそうに見えますね。
一方で”わんた”さんの推定年収700万円には全くと届きませんね。
また、多くの現役作家の反応とは乖離しています。
そもそもこの”平均”という考え方が視聴者から誤認されているようにみえます。
一部のトップランカーがそれ以下を圧倒する発行部数であればおのずと平均以下の作家が多くなります。この8,000万円も数人、数十人の作家が数値を押し上げているだけでしょう。
よってより年収実態を実感できる数値としては中央値を提示すべきだったのかもしれません。
中央値であれば年収を高さ順に並べた際、その順番が丁度真ん中になった値となります。
例えば10人の作家の年収が以下の通りとします。
1億、8,000万、5,000万、1,000万、700万、700万、500万、400万、400万、200万以下
この平均は約2,600万円となります。
一方で中央値の場合中間の数字、即ち700万となります。
どうでしょうか。
大きな乖離があることがわかることでしょう。
今回の件でいえばこの中央値以下作家の方々より反応があったのではないでしょうか。
反対にトップランカーからの反応がないのは当然でしょう。
「私、1億円もらっています」などと言えませんからね。
結論、繰り返しになりますがトップランカー層に限れば平均年収8,000万円は妥当です。
よって、今回の番組での”平均年収”とは定義が異なることから補足があれば問題はなかった。
SNS上の反応は?
さて結論はでましたが、ここからはSNSでの反応を見ていきましょう。
どこまで本気に発言か分かりませんが、今回の件で「ライトノベル作家=金持ち」が定着しないでほしいですね。
プロの作家を夢見る若者が増えることは良いのですが現実は厳しいことをもまた知っておくべきでしょう。
仮に8,000万円の年収を得ることができたとしても、挿絵を担当するイラストレーターにも報酬を渡す必要があるため、通常の小説とは異なり、何かと支出は多くなりがちのようです。
一方でアニメ化といったメディアミックス展開も期待でき、そこでヒットすれば印税以外の収入にも繋がります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
”ライトノベル”というワードがお茶の間に流れることなどなかなかない機会でした。
そういった意味ではより多くの人にライトノベルについて認知してもらえてよかったという側面もあります。
ただし誤った情報を振りまき、視聴者、ライトノベル作家とその関係者に明確をかける事態になったことも事実です。
既に番組事態は終了したとはいえ、ここまで騒がれた以上、テレビ局からの補足、訂正が出ることを祈るばかりです。