入社式や人事異動など、サラリーマンにとって4月は何かと人の出入りが激しくなります。
期待と不安を胸にこれらを待ち望んている人も少なくないのではないでしょうか。
自信が希望する部署への異動や昇進。
これらを希望する一方で、恐怖する季節でもあります。
行きたくない部署への異動、降格など絶望と隣り合わせです。
そんな中、最も気になる異動。
それが「出向」です。
近年、テレビドラマ「半沢直樹」がヒットしたことでサラリーマンでない人にも浸透した出向という制度。
ドラマのなかでは出向=左遷という図式として登場人物たちが恐怖していました。
しかし本当に出向とは左遷と断言できるようなことなのでしょうか。
今回は筆者がかつて体験した出向の経験を交えながら、出向の全容について解説します。
出向を言い渡されたサラリーマンにこそ絶望する前にまずはその実態についてよく知っていただければと思います。
一般的に言う、出向とは
ではまず出向の定義について説明します。
出向とは、勤める会社の関連会社への人事異動をさします。
※珍しいケースとして、全く関係のない会社に異動するケースも存在するようです
つまりは自身が入社した会社と異なる会社で働く、ということです。
この時重要となるのが、自身の身分、人事権の所在です。
出向の種類について
出向には「在籍出向」と「移籍出向」のパターンが存在します。
前者については自身の身分はもちろん、人事権についても異動を命じた会社の扱いとなります。
そのため就業規則はこの会社のものを遵守する必要があり、また給与の支払いについても元々の会社より支給されます。
一方後者の場合は出向すると同時に以後出向先の身分となり、人事権もその出向先の会社となります。
このため前者場合には、出向した後についても出向を命じた会社からの命令で元の会社に異動することもあります。
というより、おおよそは一時的な出向であり、最終的には元の会社に戻るというのが大半でしょう。
そして後者の場合、命じられたら最後。
二度とその会社には戻ることができない片道切符となるのです。
筆者が経験したのは「在籍出向」です。
そのため出向した後、元の会社に戻りました。
「移籍出向」について経験はありませんが、当時の会社にて移籍出向が実施され、社内でも大きな話題となったことを今でも覚えています。
この時には労働組合が動き、出向先での給与の維持や役職の引継ぎなどの交渉を経営層とかつてないほど深刻なレベルで調整していました。
「移籍出向」の主な理由として、出向を命じた会社の人件費削減があげられます。
人件費は出向先持ちとなる一方でその人材の労働力を引き続き利用できるのです。
出向した職員は新たな雇用契約を出向先と結ぶことにより、その条件は往々にして出向前よりも悪くなる傾向があります。
具体的には給与面です。
よくて現状維持、悪くて減額となります。
これまでのキャリアについてはある程度配慮されるものの、新しい会社。
特にこれまで本社で働いてきたものがその関連会社、子会社へ異動となるとその待遇についても良くなることは稀でしょう。
こうした理由により、移籍出向というのはネガティブなイメージがついて回ります。
そしてその考えは決して間違えではないのでしょう。
そしてこの移籍出向が=出向、というふうに世間で誤認されたことで出向は左遷扱いといった悪いイメージをもった要因なのかもしれません。
出向社員とプロパー社員の違い
※ここからは出向=在籍出向として説明します
続いては出向社員とプロパー社員の違いです。
出向先には当然その会社に専属で勤めている社員が存在します。
それがプロパー社員です。
両者の関係については違いがあるとすれば人事権の所在です。
前述したように出向社員の人事権は引き続き出向を命じた本社にあります。
そのため出向先の会社が元の会社や別の関連会社へのさらなる出向などを命令することはできません。
この他、給与の支払いや健康保険等の事務手続きについても元の会社が担当します。
簡単に言ってしまえば以上の違いだけです。
業務内容については出向社員だから○○、プロパー社員しか〇〇ができないといった制限はありません。
少なくとも筆者の経験では業務上、双方の違いは存在しませんでした。
しいて言えば、出向社員の場合は将来的に元の会社に戻る可能性があることを考慮し、簡単に代役を立てられるような業務に携わることは稀だった、というぐらいでしょうか。
このため業務面については双方共に気になる点はなかったといえるでしょう。
とはいえ、双方共に思うところが全くなかった、というわけでもありません。
プロパー社員としては同じ仕事をしているにも関わらず、給与といった待遇面が優遇される傾向にある出向社員に対して妬ましい気持ちがなかったわけではないでしょう。
また、これは実際に筆者が直面した話となります。
元々本社に入社を希望していたが試験に落ちたため、関連会社に入社した、という人がいました。
この人からすると出向社員に対して複雑な気持ちをもっていたことでしょう。
そして出向社員からするとプロパー社員の気持ちなど気にする余裕もなく「なぜ、自分が出向したのか」という気持ちをしばらくは引きずるものです。
最終的には本社に戻れる可能性があるとはいえ、それでも不安はつきません。
筆者の場合、出向する直前に人事部より2年度で戻ってこれると伝えられていました。
しかし蓋開けてみるとなんと4年も在籍していたのです。
2年を越えたあたりからいよいよこの出向先で骨をうずめるべきかを真剣に考えたものです。
出向のメリット、デメリット
ここからは出向におけるメリットデメリットについて解説します。
特に筆者における実体験によるところが大きいため、人によっては左右される意見もあることをご了承ください。
<メリット>
- 同期と違う経験ができる
- 出向先とのコネクションができる
- 本社の面倒ごとから距離をとれる
1.同期と違う経験ができる
まずとなんといっても他の同期と比べて珍しい経験ができる、ということです。
当然ですが、出向は通常の人事異動と比べて対象人数が限定されます。
そのため他の同期とは異なる経験を積むことができます。
特に関連会社、子会社の場合は専門職が強い傾向にあるため本社ではできない仕事ができます。
よくあるのがシステム会社や支払いなどの経理を専門とする会社です。
これらが本業ではない場合、規模の大きい会社だと部署ではなく、子会社として存在することが多い傾向にあります。
ここでの経験が後に本社に戻った際に意外な形で役に立つ、なんてことも珍しくありません。
将来のキャリアを考えた際に、自身における大きな武器になる可能性が高いと言えます。
筆者もかつてはシステム会社に出向となった後、本社に戻った経験があります。
出向自体の知識や経験が本社業務で活きたことは一度や二度ではありません。
周囲からも「〇〇の会社に出向していたからシステムに詳しいやつ」。
と評価されていました。
2.出向先とのコネクションができる
こちらも将来のキャリアに関連するメリットです。
グループ内の会社とはいえ、会社間をまたくことは社内の部署間と比べて交流は少ないといえるでしょう。
しかし業務においてはこれらの会社と連携することも珍しくありません。
本社の戻った後、かつて所属していた子会社にちょっとした頼みごとをする際には、他の人に比べ、格段に相談しやすいことは間違いありません。
会社が出向させる目的としては1.のように専門性を学び、本社で活かしてほしいという点。
そしてこのような会社間での人間関係を円滑にするための人材を育てるといった側面が多いのではないでしょうか。
そういった意味でこれは出向した人にとって他の人にはない大きな唯一性といえます。
ちょっとした頼み事であっても、正攻法で子会社に依頼する場合、面倒な手続きがつきものです。
しかし知り合いの場合、二つ返事で対応してもらえることもわります。
筆者のこれにどれだけ助かれたことやら。
3.本社の面倒ごとから距離をとれる
面倒ごと、簡単にいってしまえば社内政治です。
本社と比べると子会社の場合、業務規模、人員などは小規模となります。
そのため、大きな企業にありがちな偉い人たちの権力闘争などに巻き込まれることがほぼありません。
特に執行役員以上の直轄部署に所属した場合にはさまざまな人に気を使い、忖度する日々となります。
こうしたことから距離をおける、というのは精神的にとてもよい環境といえるでしょう。
この他、本社全体に要請のある、繁忙期における特定の部署への臨時の応援も面倒ごとでしょう。
自身の業務が忙しいにもかかわらず、どこからともなく偉い人の一言でアルバイトのごとく、臨時の人集めに駆り出されることがあります。
しかし出向者に限って言えば、対象外になることが多く「自分には関係ないや」と開き直ることができます。
<デメリット>
- 将来のキャリプランが固定化される
- 本社との関係性が希薄となる
1.将来のキャリプランが固定化される
メリットの裏返しです。
出向することによって本社における唯一性を獲得することができます。
一方でそれに即したかたちでのレールが敷かてしまうのです。
例えば筆者の場合、システム系の子会社に出向していました。
そのため本社に戻った後も何かとシステムに関連する業務に携わることが多かったです
会社が自身に求めているスキルがそれである、と突き付けているようでそれ以外の業務に携わることが躊躇われることもありました。
よって、自身の希望するキャリアプランと合致しなければ、これは大きなデメリットといえるでしょう。
本社に戻って後の自身の将来像、やりたいことからかけ離れる危険性があるというのが出向の怖いところです。
2.本社との関係性が希薄となる
出向先との関係性が強くなる一方、逆に本社との関係性が薄くなります。
今後も出向先にとどまる場合は問題ありません。
しかし将来的に本社に戻る場合を考慮すると、出向した後も本社とは一定の距離を保たなければ出戻った際に苦労します。
筆者の経験上、なによりつらかったのは同期同士での飲み会です。
仕事の話題になると自分だけついていけないのです。
仕事だけならまだよいのですが、社内の○○の上司や取引先の○○さんといった人物についてはどうしようもありません。
メリットのなかで面倒ごとから距離をとられるお伝えしましが、その裏返しとしてこうしたデメリットも存在します。
そのため、完全に距離を取るのではなく、やはり同期間で話が通じる程度には常日頃より情報をキャッチすることを心がけなければなりません。
いざ本社に戻った際に知り合いがいません、とあっては苦労すること間違いありません。
結局のところ出向とは左遷なのか
出向とはメリットとデメリットは表裏一体であり、あっちがたてばこちらがたたずといったもどかしい立場にあります。
そのうえで、筆者がいえることは出向とは
本人の気持ちとやる気次第で栄転とも左遷ともなる
ということです。
どっちかずつな回答で申し訳ありませんが、やはりどこまでいっても気の持ちようが重要です。
片道切符であれば残念でした、としか言えません。
しかし本社に戻ることが前提であればその経験は将来の大きな資産となる可能性があります。
他の人とは違うキャリア、正道ではないもののその経験を生かすも殺すも己次第でしょう。
出向した嘆き、戻れる時までなんとなく仕事をするか。
または戻った時を考え、いろいろどん欲に学び続けるか。
この過ごし方によってその後にキャリアが大きく変わるのではないでしょうか。
そのため、出向した時点ではそれが栄転か左遷かはわかりません。
後になって振り返った際に、ようやく判断できるものでしょう。
筆者の個人的な感想としてはやはり出向してよかった、という気持ちの方が大きいですね。
筆者の場合、同期のようにバリバリ仕事ができるほうではなかったため、正攻法では勝たないと考えました。
そこで出向先での経験を活かし、オンリーワンの存在となることを目指したのです。
結果的にそれがよかったと今でも思えます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
出向と一口にいっても本社に戻れるかどうかが一つのポイントです。
最終的に栄転であったといえるよう、出向中の時間を大切にしてほしいと思います。
- 出向には「在籍出向」と「移籍出向」が存在する
- 本社に戻る可能性にある「在籍出向」の場合、人事権は引き続き本社にある
- 出向におけるメリットとデメリットは表裏一体
- 出向が左遷かどうかはその時点では判断できない